望む世界は自分でつくる

子どもふたりと暮らすシングルマザーが、自宅の一室をairbnbで貸して、家にいながら多様性に触れる日々を書いています。4期連続airbnbスーパーホスト。

家を買う!

 

 家を購入したいと思ったことがありませんでした。父に小さいころから「固定資産を持つな。住宅ローンは借金だ」と刷り込まれていたせいで、家を買うのはリスクが高いとずっと思ってきました。それに旅行が好きで、あちこちに住んでみたいという気持ちもあったので、家を買ったら気軽に転居できないことが気になっていました。子どもが増えたり、独立したり、家族の形態が変わることを考えると、自在にサイズを変えられる賃貸のほうが理にかなっているとも思いました。

 

 しかし、個性豊かな個人宅に宿泊するにつれ、私ももっと自分の好きなように手を加えた住居に住みたいと強く思うようになりました。賃貸だと、壁にペンキを塗ったり、柱にくぎを打ったり、原状復帰できないことへの制限が非常にあります。それに、子どもが小学校に上がったら、しばらく一か所に住むだろうという気持ちもありました。地元に友達がいっぱいいて、すぐに誰かの家に集まることができて、道を歩けば顔見知りに会う、という環境が小学生くらいの子どもにとって、私が与えたいと思う環境だったのです。なんといっても、私も早くairbnbのホストがやりたい。当時住んでいた賃貸のマンションは、家族で住むのにも手狭でした。

 

そこで、理にかなっているのは賃貸だけど、限りある人生を楽しむために家を買おうと思い、探し始めました。自宅にゲストを泊めたり、招いたりを頻繁にしたかったので、騒音が問題になりそうなマンションは避けました。ただでさえ子どもたちが飛んだり跳ねたりするのです。また、マンションは民泊を管理組合で禁止しているところもあると聞き、自分のしたいことがそのせいでできなくなったら嫌なので、一戸建てを選びました。

 

 人を泊めるとなると、間取りに余裕が必要です。しかしあまり広いと予算と釣り合わない。そこで、中古の戸建てを購入しました。JRの駅から徒歩圏内で、コンビニと銭湯、コインランドリーも近いので何かあったときも安心です。3階建てで、3階はワンフロアに一室だったので、ゲストルームにぴったりです。少しずつ、理想が現実に近づいてきました。

海外旅行は年に数回のお楽しみ、じゃもったいない

私が数週間にわたる長期の海外旅行を繰り返しできていたのは、育児休暇中だったからです。復職のタイミングで、なおかつ子どもが小学校に上がるときでもありました。子連れだと日程にゆとりがある旅のほうが絶対楽しい。そして、これからは旅行に行けるのは私が仕事を休めて、なおかつ子どもの学校が休みのとき、と考えると年に数回です。少なすぎます。でも、今している仕事も好きだから、やめるのも嫌だな、という気持ちの間で考えました。そして、「だったら旅行に行けない期間は、自宅に旅行してる人を泊めればいいんだ」と思いついたのです。

 

 自分が旅行する間は、行った先の暮らしを体験させてもらい、自分が家にいる間は、東京の自分の暮らしをほかの場所から来た人におすそ分けする。自分がしてもらった素敵なことを、ほかの誰かに対してする機会があるというのが、私にとっては嬉しいことでした。私は、自分が楽しいと感じることをするのが人生でもっとも大事なことだと考えていますが、同時に自分だけで終わってしまうともったいないと思ってしまう貧乏性な性質もあります。自分がした楽しいことを、わかりやすいかたちでほかの人に伝えられるところまで含めて「楽しい」と感じます。そんな自分にとって、このサイクルは持続可能でぴったりだ!と思いました。

さまざまな人生に触れる

 それから、さまざまな場所へ行く際はairbnb、カウチサーフィン(旅人を無料で泊めたり、会って遊んだりするサービス)を利用するようになりました。WWOOF(農業を手伝う代わりに宿泊場所と食事を提供してもらう)をしたこともあります。ひとり旅をしていたころは友人の家に泊めてもらうこともよくありましたが、子どもを2人連れているとなかなか頼みにくい。そんなとき、しくみとして自分の家を宿泊場所として提供する人と出会えるのはありがたかったです。

 

 いろいろな場所に泊まり、さまざまな人と生活を少しだけ見せてもらいました。私は子どものいる生活に今はとても興味があるので、さまざまな国で子育て中の家庭がどのように子どもと向き合っているのか、それにまつわる食やインテリアを見ることはとても楽しかったです。また、子どもたちには東京の自分たちの生活は世界のごくごく一部で、あなたたちが大人になったら今とは全然違っても好きなことをして、好きな場所に、好きな人と住めばいいんだよ、ということを伝えてきたつもりです。言葉がなくても通じる思いもあるけど、言葉があるならとても便利、ということも繰り返し伝えました。どこまで伝わっているかはわかりませんが…。

 

 いくつかの場所へ行き、考えたことがあります。

 

ひとつは、私が住んでる街はけっこうイケてる!ということ。流行ってるから、という理由だけでポートランドに行ったとき、たしかに素敵だし面白い取組みや場所が多いけど、この感じは我が地元とすごく似てるなあと思いました。

 

 ふたつめは、自分が幼いことからずっと育った場所である「地元」という感覚は子ども自身にとって大切だなということ。道を歩けば知り合いに会い、いつもの公園にいれば誰かしらいて遊びが始まる、それを遠巻きにたくさんの大人たちが見ている、というような。それを行った先々の人がしているのを見て、うらやましくなりました。旅は楽しいですが、帰ったらいるたくさんの友だちに会いたいなと思いました。本当に「青い鳥」状態です。

 

 みっつめは、案内してもらうより案内する側のほうが楽しいんじゃないか?ということ。ホストたちは、自身が住んでいる場所のすてきなところや仲のいい人をたくさん紹介してくれました。もちろんこちらも楽しかったけど、紹介するほうも楽しそうだな、とずっと思っていました。

 

 そして、行く先々で本当に親切にしてもらって、この感謝は自分のうちだけに留めていてはもったいない、誰かに恩送りをしたい、循環させたいと思うようになりました。WWOOFで泊めてもらった家での経験は本当に素晴らしいものだったのですが、私が何かの巡り会わせでこういう素晴らしい場所に泊まれたのは、ここからなにかを学んでほかの場所へ還元するべきだからなのでは、ということを本気で考えました。この場所に限らず、場所や人に恵まれていたのは、私個人が楽しむためだけではないんじゃないか、と。

人生をシェアしあう

 

初めてairbnbをゲストとして使った、ここまでの経緯はこちら。

 

 

 

最初の予感通り、その家はとても快適でした。交通の便もよかったし、現地の友人を招いていっしょに夕食を食べることもできたし(コペンハーゲンは外食もべらぼうに高いし、お互い子連れだと家のほうが気楽なのです)、観光に飽きたら近所の公園でピクニックしたり、天気が悪い日は部屋の中でのんびり過ごすのも快適でした。

 

数日して、ホストが帰ってきました。ようやく会えた!と感激しました。彼女の6歳になる息子もとてもやさしくフレンドリーで、我が家の子どもたちとすぐに仲良くなりました。私は彼女にいろいろなことを聞きました。当時、育児と仕事の両立が日本ではハードだと感じており、ほかの国での状況に興味があったのです。彼女は「デンマークでは一般的にこうである」という話と、彼女自身の個人的な話の両方を聞かせてくれました。その話をしているときに私は、住む場所や環境が違っても、同じ境遇である部分に心の底から共感したり、個人的な話が強く心に響いたりすることがあるのだな、ということを思っていました。また、彼女が子どもといっしょに食べているものだったり、インテリアだったり、ライフスタイルそのものにも強く影響を受けました。日本にいると、仲がいい友だちでも数日自宅に泊めてもらってどんな生活をしているかを見る機会なんてそうそうありません。同じくらいの年ごろの子どもがいる家庭というのは、とても発見が多いものです。彼女と話したこと、彼女のゲストに向けられる態度、彼女のライフスタイルすべてが印象的で、数日前までお互い知らなった年齢も国籍も違う相手と、こんなに心の深い部分まで話し合えること、そのきっかけとなったairbnbというシステムはすごいと思いました。

 

帰国する日に、ホストが空港まで送ってくれました。2週間前はひとりで2人の子どもを抱えつつ重い荷物を引き、緊張しながら降り立ったのに、帰りはホストに荷物を運ぶのを手伝ってもらい、談笑しながら空港を歩いたことの対比は、この旅行の象徴的なできごとでした。

出会って5分の人に自宅の鍵をわたすということ

 

 初めてairbnbでゲストとして宿泊したときのことです。前編はこちら。

homesharing.hatenadiary.jp

 

 

 その日が近づくにつれ、だんだん不安になってきました。実在しない場所だったらどうしよう。寝ている間に身ぐるみはがされて外に出されたらどうしよう。さらにホストから「私と息子はしばらくタイへバカンスへ行くので、あなたが泊まってる日程の何日かは留守なの。私たちのルームメイトに鍵の受け渡しを頼むからよろしくね」とメッセージが来て、ますます不安になりました。年齢も性別も国籍もわからないルームメイトに、私たちの2週間の滞在はかかってる。子ども2人をひとりで連れて旅に出るのも、子どもと一緒に乗り継ぎありで総フライト時間が10数時間に及ぶ旅をするのも初めてです。出発の直前にはなんで行くことにしたんだろう、とすら思っていました。

 

 12㎏の0歳児をだっこひもでくくりつけ、片手は5歳児とつなぎ、もう片方の手で30kgのスーツケースを引きながら、私はデンマークにつきました。空港から公共交通機関で街へ出るパワーはなかったので、タクシーに乗り住所を伝えました。運転手さんに「このあたりにホテルはないですよ」と言われ、「友だちの家なので大丈夫です」と答えます。本当は大丈夫じゃないけど、ここまで来たら行くしかありません。住所のところまで来て「ここで本当にいいんですか?」と聞かれましたが、本当にいいのかどうかもよくわからない。入り口すらよくわからない。でも降りるしかない。教えられた電話番号にかけてみると、女性の声で「すぐ行く」と言われました。重厚なオートロックの扉の向こうから、笑顔の女性があらわれました。彼女は私たちをすぐに部屋の中へ招き入れてくれました。中は暖かかったです。そしてWEBで見た、あのカワイイ部屋があったのです。私は「この旅行はとてもいいものになるに違いない」とその時思いました。

 

 ルームメイトの彼女は、キッチン、バスルーム、リビング、ベッドルームと順番に案内しながら簡単に使い方を説明してくれました。それが終わると「じゃあこれはカギ。出かけるときはかけてね」とカギを手渡すと、自分の部屋に消えていきました。ものの5分くらいの間の出来事です。お互い、名前と国籍くらいしか知りません。その相手に家のカギを渡すという行為が、当時私にはかなり衝撃でした。私が悪い人だったら、どうするんだろう。そんな可能性を考えないくらい、信頼されてるっていうことなんだ。絶対に裏切らないようにしなきゃ、と強く思ったことを覚えています。

始まりは自分がゲストだったから

もともと旅行がとても好きでした。ひとり旅が多かったですが、友達や家族と行くことも好きでした。でも、2008年に出産してからはもっぱら子ども連れで行くようになりました。子どもと行くと、「子ども連れの自分」に対するその都市の人の接し方が、ひとりでいるときとは全然違うことに気がついたり(主にポジティブな意味で)、子どもがいなかったら行かなかったような場所に行ったり、そこが意外とおもしろかったりすることに気付いたのです。子どもが話すようになると、旅行先と東京の違いや、なぜそうなったのか、など言葉を交わせるようになり、ますますおもしろくなりました。そうしているうちに子どもと行った場所は11か国、19都市に上ります。

 

初めてairbnbを利用したのは、2013年の春。当時5歳、11か月の子どもたちと2週間コペンハーゲンを旅行したときです。その半年前に1か月ほどタイとシンガポールを子連れで旅行していたとき、子どもと一緒にホテルに長期間滞在するのはしんどいなあと思ったのです。子どもがのびのび遊べるような作りじゃないし、飽きるし、部屋の中ではおもしろくない。なのにお金はめちゃくちゃかかる! じゃあどうしようと考えたとき、子どものいる現地の家庭に泊めてもらえば、遊び相手もいるし、おもちゃもシェアしてもらえるし、子どもが住んでるのだから危険なエリアではないだろうし、私もその国での生活と子育てを一気に見ることができてオトクかも!と思いつきました。コペンハーゲンのホテルはおそろしく高いので、それより高くなることもないだろうとも思っていました。Airbnbのことはネットで読んで知っていたので、アカウントだけ作っていました。

 

探し始めると、すぐに泊まってみたい部屋を見つけました。長男の1歳上の男の子とシングルマザーの家庭。近くに公園もスーパーもあり、バス停も近くて、お風呂はバスタブつき、キッチンも使えるし、なんといってもインテリアがすごくカワイイ!!! そして、コペンハーゲンの標準的なホテルの4分の1以下の値段でした。メッセージのやりとりをしても感じがいいし、私はすっかりその物件に泊まるのが楽しみになりました。

今まで19か国70人以上のゲストが泊まった

今まで我が家に宿泊したゲストは、19か国70名以上にも及びます。受け入れの条件は、日本語か英語で意思の疎通ができること、公的なIDを提出してくれていることのふたつだけです。多いのは韓国、台湾、香港など近隣のアジアからのゲストですが、私が行ったことのないような国、コロンビアやアルゼンチン、スイスなどからもゲストは来ます。WEBでアカウントを作って、クレジットカードでの支払いがマストなので、年齢は若い層が多く20代から40代の人がほとんどです。我が家は住むには便利なエリアですが、観光地から近いというわけではありません。そして、子どもがふたりいて静かな環境ではありません。そんな我が家を選んでくれるゲストというのは、東京に来るのが二度目以上か、日本の文化に(時には日本人の私以上に)造詣が深いか、東京のローカルな生活にとても興味をもっているか、それらの要素を複数持つか、という人々です。ニュースで「民泊」に泊まる外国人のマナーの悪さ、などと取り上げられているのを見ると、自分の見ている現実との違いに驚きます。

 

我が家に泊まるゲストは、ルームメイトという感じです。フレンドリーで、夜遅くなるときは音に必要以上に気を付けてくれるし、ごみの分別についてもわからないことがあれば聞いてくれます。泊まったあとの部屋が、きちんとベッドメイキングされていて驚いたのも1度や2度ではありません。自分に置き換えてみても、誰かの家に泊めてもらったら、その人たちの暮らしと大きく離れたことはたぶんしません。そういうことなんじゃないかと思います。